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『土の記』 上・下 高村薫

いい本でした。良質の本でした。でも、サクサク読めるというわけにはいかず、随分時間がかかりました。農業の手順、稲作、土、土壌、雨の描写が細部に渡り、長くて読むのが大変でしたが、素晴らしい筆力だと思いました。

さて、著者高村薫(1953年大阪生まれ)は有名な作家で、何冊も大作を書いていて、いつも心惹かれていましたが、今までチャンスがなく、初めて読んだのが本書です。

一人暮らしとなった72歳の伊左夫が主人公です。夢と現、正気とボケの狭間を揺れ動いているようなところが、先に読んだ『おらおらでひとりいぐも』とよく似ています。本書の主人公も妻を亡くしたばかりです。

「東京の大学を出て関西の大手メーカーに就職し、奈良県は大宇陀の旧家の婿養子となった伊佐夫。特筆すべきことは何もない田舎の暮らしが、ほんとうは薄氷を踏むように脆いものであったのは、夫のせいか、妻のせいか。その妻を交通事故で失い、古希を迎えた伊佐夫は、残された棚田で黙々と米をつくる。」

「ラスト数瞬に茫然、愕然、絶叫! 現代人は無事、土に還れたのだろうか――。青葉アルコールと青葉アルデヒド、テルペン系化合物の混じった稲の匂いで鼻腔が膨らむ。一流メーカー勤務に見切をつけ妻の里に身を落着けた男は、今年の光合成の成果を測っていた。妻の不貞と死の謎、村人への違和感を飼い馴らす日々。その果てに、土になろうとした男を大異変が襲う。それでもこれを天命と呼ぶべきなのか……。」と書かれています。

雨の描写から始まります。雨を夢うつつに聞く伊佐夫。雨は作物を育てる恵みで、日本は雨が多く、雨を表す言葉も多いのですが、高村はそれにばたばた、ぼとぼととオノマトペを豊かに使っています。賢治の世界を思わせますが、奈良の里山を描いた河瀬直美氏の映画のシーンを思い浮かべて読みました。

本書には「」がないのです。会話はあるのですが、実際の会話も、伊佐夫の妄想も地の文に溶け込んでしまっています。何もかも夢か現かわからないような世界を描いています。

物語は2010年、奈良の大宇陀の山中に独りで暮す伊佐夫が梅雨の雨音に目覚めるところから始まります。
妻は16年前に交通事故に遭い、植物状態になり、伊佐夫はずっと介護にあたってきましたが、今年その妻が亡くなります。

伊佐夫は東京出身で地質学を専攻し、早川電機に就職し、それから旧家に婿入りしますが、ずっとサラリーマンを続けました。今は妻昭代の実家を継いで化学実験のように作物を慈しみ育てています。最近物忘れが多く、妻が生きているかのように姿を見、声を聞きます。どこまでが正気かボケてしまったのか、起きているのか夢を見ているのか定かではありません。

伊佐夫は実に勤勉で毎朝稲や野菜を見て回り、土を耕し、畦を築き、寒い季節には農業暦を克明に記し、犬や鯰の世話もしたり、孫娘を預かったり、田んぼを小学校に貸して指導をしたりと、ゆっくりする暇もない忙しさです。農家は季節季節にこんなに大変なものなでしょうか。

そんな忙しくも単調な暮らしをしてるかにみえる伊佐夫にもいろいろな出来事が起こります。妻はなぜ交通事故にあったのか。その加害者もなくなり、東京の兄も亡くなり、妻の昭代の妹久代の夫も亡くなります。そんな中、村の娘が離縁して、双子を出産します。伊佐夫は妻の不貞を疑いながらも自らの手で石を削り、文字を入れて夫婦石を作るのです。

伊佐夫の娘の陽子は優秀だが母親昭代と不仲で、アメリカへ留学し結婚し、一人娘を授かるが、母の死後離婚します。その後渡米した陽子はアイリッシュアメリカンと再婚します。

こんな時も雨が来る日も来る日も降り、作物の心配をし続けます。上谷(伊佐夫と昭代)の家系は女系で代々婿養子をとってきましたが、今は一人娘の陽子もアメリカに渡り、跡継ぎがなく、上谷も自分の代で終わりと覚悟しています。ジタバタなどしないのです。記憶の迷宮に迷い込んでしまったような伊佐夫ですが、しっかり根を張った土との暮らしは強いです。

2011年の3月には、東北大震災と原発事故が起き、村でも若者がボランティアに出かけます。その巨大な土の変動がこの物語につながっていきます。そして8月末に発生した台風が奈良県に大雨を降らすのです。

本の表紙は伊佐夫も作成したモノリス(土壌サンプル)が使われています。

みんなに特に年配者に勧めたい本でした。ぜひ辛抱強くお読みください。きっと深い感動が得られると思います。

読みたいと思っている高村薫の本に『マークスの山』、『レディ・ジョーカー』、『新リア王』、『晴子情歌』などがありますが、ほかの本も重いのでしょうか。

テーマ : 日々のつれづれ - ジャンル : 日記

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