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『少年と犬』馳星周

作者馳星周(1965年、北海道生まれ)の名前を初めて知ったのは『不夜城』というノアールの作品です。それしか知りませんでした。ノアールの匂いは色濃く残っているものの、全く異なる作風の作品です。作者は方向転換したのでしょう。

本書は第163回、直木賞受賞作です。

「傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――。

2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……

犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!」と書かれています。

東日本大震災で被災し、飼い主を亡くした犬(シェパードと和犬のミックス)が釜石から熊本まで旅をするロードムービー?です。

といってもディズニーのように犬が語るわけではないので、それぞれの章はその時々に突然目の前に現れた痩せ細った犬、多聞の飼い主となり、多聞に孤独を癒され、守られる。
男(上記の和正)、
泥棒(和正が加担した窃盗団の一味、ミゲル。ゴミ山の中で凄惨な少年時代を過ごす。多聞を連れて仙台から新潟から故国を目指す)
夫婦(富山の山の麓でくらす、子供のように自分の楽しみばかりに熱中する夫とその夫に愛想を尽かす働き者の妻)、
娼婦(大津市、ギャンブル狂いのクズのような男に貢ぎ、娼婦に落ちた女)、
老人(島根の山。腕のいい猟師だが、妻を亡くし、娘ともうまくいっておらず、孤独で、膵臓癌で余命いくばくもない老人)、
少年(釜石で震災にあい、今は熊本に暮らす少年の一家。震災の恐怖から言葉を発することのなくなった8歳の少年が多聞によって言葉と表情を取り戻す。熊本でも被災する)

多聞は仙台で和正に出会い、相棒となるのですが、和正の死によってさらに南下していきます。いく先々で飼い主も変わり、呼び名も変わっていきます。元々の名「多聞」で呼ばれるのは、まだ首輪に名前の残っていた第1章とマイクロチップで名前のわかった最終章だけです。

それぞれの飼い主は皆貧しく、それぞれに懸命に生きています。そんな中、空腹で痩せ細り、傷だらけになったシ「多聞」が現れ、その家に以前からいたかのように居着き、その時々の飼い主を守り、「守り神」と呼ばれ、慈しまれるのですが、各章全て誰かが非業の死を遂げることになってしまいます。そして多聞は南に向かう旅に出るのです。

作者馳星周は30歳の時からバーニーズ・マウンテン・ドッグを飼い、犬への愛の溢れた人です。

私は子供の頃に一度だけ犬を飼ったことがありますが、我が家は猫派でずっと猫がいましたが、「人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない」と言えるほど犬を知りません。この本を読むと、そんな「犬」を知らなかったことが悔やまれるほど多聞は賢く、優しく、愛おしいのです。

釜石から熊本まで犬が旅をするというとお伽噺のようですが、こんな犬のニュースを聞いた覚えがありますから、実話に近いのかもしれません。

最終章は涙なしには読めませんでした。犬好きの人が読んだら深い感動を覚えることでしょう。

テーマ : 最近読んだ本 - ジャンル : 本・雑誌

『流浪の月』The Wondering Moon 凪良ゆう

まだ3月だというのに桜も散り始めました。今年は開花が早かった割に満開まで時間がかかりましたね。
もうすぐ4月、新学期です。緊急事態宣言が解除されましたが、感染者数が減少どころが増えてきています。ワクチンは滞っているようだし、まだまだ新型コロナとの戦いの終わりが見えてきませんね。

本の感想しか書かなくなってきたこのブログも滞りがちですが、気に入った本も書き留めておかないとそばから忘れてしまうので、久々のアップです。

著者凪良ゆう(1971年、滋賀県生まれ)は漫画を描いたり、BL(ボーイズラブ)を書いていた作家だそうです。

本書は2020年本屋大賞受賞。本屋大賞受賞の本は読みやすく面白いですね。

「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人間を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、
実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。 」

本書は6章の構成になっていますが、第3章「彼女のはなし」が全体の3分の2を占めています。

主人公の家内更紗は世間の基準を気にしない自由な両親のもとに愛情に包まれて、すくすくと育っていた。9歳で優しかった両親がいなくなり、母方の伯母の家に引き取られた。はじめ、このいなくなった経緯は語られていない。

伯母さんも同居する従兄弟も好きになれず、転校先でクラスメートに馴染もうと努力をするが、息の詰まりそうな毎日を過ごす。そんな更紗は一人公園に残って暗くなるまで大好きな本を読んで時を過ごす。その公園で雨の日に更紗に声をかけたのが、少女たちがロリコンだと言っていた佐伯文、19歳の大学生。

雨に濡れた更紗は文に誘われて彼のマンションについて行き、そのままそこに居着き、2ヶ月ほど楽しく暮らす。更紗は再び自由を得て、心が解き放され、生き返った心地がする。文も自由に振る舞う更紗の影響を受け、安らぎを感じる。

失踪届けが出され、テレビでは誘拐と騒がれている中、更紗は文に動物園に行きたいと言う。顔写真が出回っていた更紗に気づいた人が通報し、文は誘拐の犯人として逮捕される。更紗が警察官に抱えられ「ふみいいい、ふみいいい」と泣き叫ぶシーンは居合わせた人の携帯電話で撮影され、ネットで拡散されていった。

その後も更紗は誘拐された可哀想な被害者として、そして文は服役後もロリコンの誘拐犯として貼られたレッテルがついて回る。

逮捕されて15年過ぎ、更紗が24歳になったある日、更紗は喫茶店のオーナーとなった34歳の文と偶然再会する。

更紗と文の関係は?被害者と加害者なのか?男と女と言えるのか?二人にとってあの2ヶ月はなんだったのか?

ツッコミどころは多々ありますが、とにかく面白くて一気に読みました。

テーマ : 最近読んだ本 - ジャンル : 本・雑誌

『ツバキ文具店』小川糸

『ツバキ文具店』は2016年初版ですが、2017年にHNKテレビ「ドラマ10にて『ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜」として放映されました。
楽しみにして毎週観てました。

映像を先に見て後から本を読むということは滅多にしないのですが、この本についてはこういうことになってしまいました。好きだったドラマのせいか、数年経ったのに配役からストーリーをよく覚えているのです。特に先代(主人公鳩子の祖母)役の倍賞美津子の名演技。もう頭の中はテレビドラマのキャスト以外は思い浮かばないし、読みながら当時の映像が浮かんでくるのです。再放送を見ている気分で読みました。鳩子役は多部未華子。

「言いたかった ありがとう。言えなかった ごめんなさい。
伝えられなかった大切な人ヘの想い。あなたに代わって、お届けします。

家族、親友、恋人⋯⋯。
大切に想ってっているからこそ、伝わらない、伝えられなかった想いがある。
鎌倉の山のふもとにある、
小さな古い文房具屋さん「ツバキ文具店」。
店先では、主人の鳩子が、手紙の代書を請け負います。
和食屋のお品書きから、祝儀袋の名前書き、
離婚の報告、絶縁状、借金のお断りの手紙まで。
文字に関すること、なんでも承り〼。」

祖母に小さい頃から厳しいしつけと書道の勉強をさせられてきたという鳩子(ぽっぽちゃん)。「小学生時代はひたすら習字の修練に明け暮れた」という。祖母に対する反発から高校時代はガングロの不良になり家を飛び出し、世界を放浪していて、祖母の葬儀にも出られなかったというのですが、祖母が亡くなり、鎌倉に戻ってその文具店と代書屋を受け継いだという設定です。厳しい祖母のしつけの中で身につけたと思われる鳩子の日常の暮らしが丁寧で美しいのです。荒っぽい青春期を過ごしてきた人とは思えないほど、隣家の70代のバーバラ夫人、幼い少女QPに優しい眼差しを向け、いい関係を築いているのです。

鳩子は
・魚屋の奥さんからの恒例の暑中見舞いはがきの依頼、
・猿へのお悔やみ文
・離婚報告のお知らせ
・結婚を約束していたにもかかわらず結婚できなかった彼女に自分が生きていることだけを伝えて欲しいという手紙
・鳩子の子供の頃から知る男爵と呼ばれる男性から友人から借金の申し込みの断りの手紙
・悪筆の嫁から姑の誕生祝いのカード
・今は亡き夫からの手紙を待つ妻への手紙
・友人への絶縁状(鏡文字で書く)

こうした依頼ごとに文章はもとより用紙、切手、ペン先、インク、太さ、書き方をその内容に合うように丁寧に選んでいきます。

こうした手紙だけが活字ではなく優しい感じの肉筆です。いわゆる達筆という文字ではありません。

その中に先代がイタリアに住むペンフレンドに吐露する鳩子への愛情あふれる手紙や鳩子がしたためる亡き祖母へ「ごめんなさい、ありがとう」の長い手紙が含まれています。


ツバキ文具店は鎌倉鎌倉宮近くの小高い山のふもとにあります。ここに描かれている鎌倉は観光地の鎌倉ではありません。。古都に住む人の生活を描いています。

私は瑞泉寺が好きで鎌倉宮でバスを降りてたまにこの辺りを歩きます。本書では夏から冬までの鎌倉の四季と年中行事が静かな優しいトーンで描かれています。巻頭には八幡さまを中心とした地図も載っています。この地図を見ながらまた鎌倉を歩きたいと思いました。

やっと少し新型コロナ患者数が減少に向かい始めました。梅が咲く頃に鎌倉に行けるでしょうか。

テーマ : 最近読んだ本 - ジャンル : 本・雑誌

『オランダ館の娘』葉室麟

著者は葉室麟(1951年小倉生まれ)、『蜩の記』で直木賞受賞。

この本も長崎物です。この本は「シーボルト事件」(https://ja.wikipedia.org/wiki/シーボルト事件をご参照ください)が柱となっています。

「日本とオランダの懸け橋に。<長崎屋>の娘、るんと美鶴は江戸参府の商館長が自分たちの宿に泊まるのを誇りにしていた。そんな二人が出逢った、日蘭の血をひく青年、丈吉。彼はかつて宿の危機を救った恩人の息子だった。姉妹は丈吉と心を深く通わせるが、回船問屋での殺しの現場に居合わせた彼の身に危険が降りかかる・・・・「シーボルト事件」などの史実を題材に、困難な中でも想いを貫く姉妹の姿を描く歴史小説の傑作。」と書かれています。

幾度となく起きた江戸の大火。1657年の振袖火事、1772年の目黒行人坂の大火、1806年の丙寅の大火。この最後の火事が上記の「宿の危機」です。江戸の長崎屋に滞在していたカピタン(オランダの商館長)、ドゥーフがその火事の凄まじさを記し、長崎屋に砂糖を送り続けたという。出島に閉じ込められていると思っていたオランダ商人たちは定期的に江戸に参府していたのですね。

当時の密貿易、荷抜けをする東アジアに広がる海賊。出島に住むドゥーフと日本の遊女との子供丈吉と、シーボルトと遊女其扇の娘イネ。遠山金四郎、間宮林蔵などが登場します。間宮林蔵は樺太、間宮海峡を発見した探検家だと思っていたので、隠密としての暗い生き方にびっくりしました。

林蔵はるいに「わしは彼の地で、強風に行く手を遮られて難儀したことがある。砂礫を天高く巻き上げる竜巻のような風だった。その時、この風は日本にはない千里、万里を渡ってくる風だと感じた。そんな風の中で、わしは自分を誠に小さい塵の如きものだと思った。この思いはひとに話してもわかってはもらえぬ」と語っています。

シーボルト事件で処刑された高橋景晋は遠山金四郎に「このままでは大きなものが失われる」「わが国とオランダとを結ぶ心の絆だ」と語ります。オランダ語の「イク ホウ ヴァン ヨウ( I love you) 」が響いています。

それにしても葉室麟に事件もの、サスペンスは似合わない。作者の良さが生かされていないと思いました。長崎屋女将の幼馴染の妙心尼の最後には「それはないでしょう」と唖然(言わないでおきます)。せっかくの題材をこれだけ集めたのにと思いました。

昨年10月初めに長崎へ念願の一人旅をしました。コロナ禍でしたが、感染者の少ない長崎でもマスクをしていない人はおらず、徹底した消毒対策が行われていて、安心して旅行ができました。でも、地方の一人旅は交通の便が悪くて移動には思った以上の時間がかかりました。

この舞台となった出島へも行きました。市内は市電に乗り、後はスマホの地図を見ながら往時を想いながらひたすら歩きました。綺麗な海、凄惨な原爆跡地の平和祈念、潜伏キリシタン跡、歴史的建造物、異国情緒、入りくねった狭い坂道、美味しい食べ物、親切な長崎人、挙げればきりがないほど大好きな街になりました。

テーマ : 最近読んだ本 - ジャンル : 本・雑誌

『熱源』川越宗一

本書は樺太を舞台にした大河ドラマのような大スペクタクルの歴史小説です。明治維新から終戦までの戦争、他民族支配を背景にアイヌ、ポーランド人を描いています。

「故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。」

著者川越宗一(1978年、大阪生まれ)は本書で直木賞を受賞。土地、時代背景、文化がいかにそこに生きる人々を育てていくかが丁寧に描かれています。ロシア語、ポーランド語、アイヌ語が出てきます。

まず序章で私という一人称で語っているのはソ連の女性伍長で大学では民俗学を専攻していました。時は終戦の樺太です。この兵士が主人公ではなく、また最終章に再登場します。彼女にドイツとの戦争で「私が生まれ育った街から、私を生み育てたものはなくなってしまった」と語らせています。

本書の主人公は樺太アイヌのヤヨマネクフで、明治8年、「ロシアと日本が取り決めて樺太はロシアのものと決まった」のを機に北海道の対雁(ついしかり)へ移住することになります。そこで教育所ができ、差別を受けながらも和人の言葉で「立派な日本人になる」勉強をしています。幼馴染と共に学び、成長した彼は幼馴染のピリカ、キサラスイと結婚しますが、妻は当時流行していたコレラに倒れ、ヤヨマネクフはロシアの領土となった樺太(サハリン)へ帰郷するのです。

第2章では、もう一人の主役、ポーランド人のブロニスワフが登場します。彼はサハリン島に流刑15年となり、開拓労働をさせられ、夢も希望もなく生きています。ブロニスワフの故郷はリトアニア。隣国のポーランドと連合しましたが、ロシアのものとなり、同化政策が取られポーランド語は国禁となっているのでした。

ブロニスワフはサハリンでギリヤーク(オロッコ、アイヌと並ぶサハリンの民族)の狩人に出会い、興味を覚えます。ロシア人はギリヤークを「怠惰で愚鈍。滅びゆく民族」と評しています。川と森の間で生きてきたギリヤークはロシア人の入植により一変します。ブロニスワフは「体か魂の死を待つばかりだった自分を蘇らせてくれたのはギリヤークの人々だ」と民族学者との出会いもあって、自分は何をすべきかと問い、民族学を学び始めます。

「サハリン島」「そこには支配されるべき民などいませんでした。ただ人が、そこにいました」

第3章でヤヨマネクフとブロニスワフが出会います。ブロニスワフは樺太アイヌの女性と結婚し、ヤヨマネクフの幼馴染の千徳太郎治(父は和人、母はアイヌ人)とアイヌの教育に尽力することになるのです。ブロニスワフと太郎治は実在の人物で書物を残しています。

明治43年、白瀬中尉が探検隊を率いて南極点を目指したとき、ヤヨマネクフとシシラトカ(ヤヨマネクフの幼馴染み)(和名を山辺安之助と花守信吉)は樺太犬とぞりを担当し南極へ行きます。

ほかにも、ポーランド共和国の初代国家元首となったブロニスワフの弟のユゼフ・ピウスツキ、金田一京助、大隈重信、二葉亭四迷ら実在の人物が生き生きと描かれています。

背景に流れるテーマは押し返すとこもできない文明の怒涛の太い流れです。アイヌは滅びゆく民族なのか。ヤヨマネクフは「俺たちはどんな世界でも、適応して生きていく。俺たちはアイヌですから」「アイヌって言葉は人という意味なんですよ」

アイデンティティに悩むアイヌ、ポーランド人、言葉を奪われた民族の切なさと渇望。

とんこり(五弦琴)を奏でるヤヨマネクフの妻キサラスイ、イペカラ、ソ連の女性兵士、女性も賢く力強く生きています。とんこりの調べに民族の歌がBGMのように聞こえています。

ポーランド人、ロシア人、アイヌの名前が難しくて人名一覧を何度も見返しながら読みました。

骨太の素晴らしい本です。ぜひお読みください。

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『道行や』Hey, you bastards! I'm still here! by 伊藤比呂美

(ちくしょう)あたしはまだ生きているんだ。これは「Hey, you abastards! I'm still here.」の訳らしい。

表紙に「漂泊しながら生き抜いてきたわたしの見ている風景は・・・・
女たちの暮らし、故郷の自然、一頭の保護犬、河原の古老、燕や猫やシイの木やオオキンケイギク、そして果てのない旅路に吹く風だった。」

「カリフォルニアで男と暮らし、子ども育てて介護に行き来、父母を見送り夫を看取り、娘と離れて日本に帰国。今日は熊本、明日は早稲田、樹木花犬鳥猫を愛で、故郷の森や川べり歩き、学生たちと詩歌やジェンダーを語り合う。人生いろいろ、不可解不思議な日常を、漂泊しながら書き綴る。これから何が始まるのか――。」

伊藤比呂美(1955年東京生まれ)詩人だそうですが、まだ彼女の詩を読んだことはありません。あれ、読んだかな?
著書も多く、受賞歴も豊富です。本書は諧謔にあふれた良質なエッセイです。比呂美さんは、文筆家にこんな活動的な人がいるのかと思うほど、はちゃめちゃで、「元気という病気」だと言っているが、この忙しさの中でこのすごい執筆量に驚嘆するばかりです。
触れ合う人々、見たものに対する観察のみずみずしさに、さわやかな風が吹きます。

カルフォルニアや熊本で保護犬のジャーマンシェパードを飼いながら、今は週に半分ずつ熊本と東京を行き来している人です。

比呂美さんは、毎日探し物で明け暮れている私が呆れるほどのなくし物の名人。早稲田のようなマンモス大学で文学の講座を持ち、学生の提出物を読み、採点し、それに振り回されてアップアップしながらも、時には学生を熊本に迎え、学生を慈しむ。

植物にやたら詳しくて、犬と共に散歩しながら自然の声を聞く。26年に及ぶ在米生活。いつまでも違和感を持つ重しのような英語の暮らし。日本人の前夫と二人の間の娘たち。アメリカで28歳年上のアメリカ人の夫を見送り、今は熊本を拠点に暮らすが、自分の在米資格に不安を感じて、永住権からアメリカの市民権を得る話など。

上記のHey, you bastards! I'm still hereは「パピヨンと友」のスティーヴ・マックイーン扮するパピヨンGA脱獄して海の上の筏の上で叫ぶセリフです。

***
プールの中でお互いの読んだ本の感想を言い合っていたKさん、今は退会なさり、もうずっとお会いしていません。Kさんの大好きだった伊藤比呂美、読みましたよ。いい本でしたよ。

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『グッドバイ』朝井まかて

近年長崎に行きたくて潜伏キリシタンを中心に本を読んだり資料を集めたりしていました。最初はツアーで回った方がいいと九州出身の友達から言われて、ツアーに申し込みをしましたが、このコロナ禍で残念ながらキャンセルしました。

本書は長崎が舞台です。全編会話は長崎弁なので、読みやすいとは言えませんが、不思議と途中からすっかり長崎弁に馴染んできました。『グッドバイ』は朝日新聞に連載されていましたが、新聞小説は面倒で(読み損なう心配あり)ほとんど読んでいません。タイトルから時代小説だとは思っていませんでした。でも、そういえば、今どきグッドバイとは言いませんね。

江戸から明治にかけての長崎の女商人のお話で、NHKの朝ドラの主人公にぴったりのお話でした。そのうち、登場するかもしれません。主人公は油屋大浦屋の跡取り娘、希以(江戸の最後の元号慶応になって、名を「慶」に改める)です。長崎の入り江の街は海に、海外に開けた街でした。出島があり、日本で唯一幕府に認められて阿蘭陀商人が逗留する町でした。

希以は遠く開けた海を眺め、海外との取引に夢を馳せる。希以は阿蘭陀人の少年テキストル(日本だけじゃなくヨーロッパでも貧しいものは10代初めから奉公し、泥だらけになって這いつくばって仕事をする)に会い、茶葉を託す。3年後その茶葉を持った英吉利人ヲルトが亜米利加に売るための大量の茶葉が欲しいと現れる。希以は佐賀まで出向いて茶をかき集め、誠意を尽くしてヲルトに渡す。その当時亜米利加は南北戦争の時代だった。

希以は油町で茶の製茶場を作り、ヲルト商会やガラバア(グラバー)などの海外との取引で順調に店を拡大し、おくんち祭で一手持ち(一件で祭りの費用を全部持つこと)をするまでとなった。

希以の家の2階ではのちの大隈重信、坂本龍馬など亀山社中の連中が集い、尊王攘夷、開国、交易などを口角泡を飛ばして語り合う。お慶はそれに耳を傾けているのが好きだった。

将来明治維新の重鎮となる人々との繋がりを持つに至るが、山あり谷ありのお慶の人生。古いお茶の取引先の茂作がお慶に言う。
「ばってん、しくじらん人間なんてこの世のどこにおっと。皆、失敗ば重ねて、恥や悔いで胸ん中ば真っ黒になっても、そいばを抱えて生きとっとじゃなかね」
ガラバアもヲルトも長崎弁を喋る。

あの時代にもこんな女傑が居たんだなあと痛快に思いました。本題の『グッドバイ』古い日本へのグッドバイであり、お慶は自分の所有する船の上から、ともに苦労し一緒に夢を追いかけてきた先立った仲間に、グッドバイと別れを告げるのでした。

先日NHKの再放送で「蝶々さん-最後の武士の娘」を見ました。これも明治初期の長崎のお話でした。

半年ぶりにまた長崎の旅行ガイドブックを引っ張り出しました。読んだ内容はほとんど忘れていました。これでは学習になりません。困ったものです。

コロナの状況を見て、涼しくなったら、まず長崎に行こうと思います。

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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー The Real British Secondary School Days ブレイディみかこ

作者ブレイディみかこは1965年福岡生まれ。音楽が好きで渡英を繰り返し、1996年からロンドンの南東ブライトン在住。アイルランド人と結婚し、保育士となり、中学生の男の子(10歳)を育てています。夫はシティの銀行員だったが今は大型ダンプの運転手をしています。公営住宅に住み、地元の公立のカトリック小学校を卒業した息子はカトリックの中学に進学せず、地元の元底辺校の中学に進学します。学校見学の日に音楽部の演奏と学内見学でこの学校が気に入って、息子が選んだ中学です。校長が代わってから生徒のやる気が出てきて、ここ数年良くなってきて「元」がついています。

この学校は白人の労働者階級の多い中学です。その中でも裕福な区域の子供たちもいれば、坂の上の高層団地の貧しい人々が暮らす区域もあります。

「優等生の「ぼく」が通う元・底辺中学は、毎日が事件の連続。人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。落涙必至の等身大ノンフィクション。」

この中学ではシティズンシップ・エデュケーションの科目の試験で「エンパシーとは何か」という問題が出され、「自分で誰かの靴を履いてみること」と答えた息子。この本のタイトル「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」はこの息子のノートの落書きからとったものです。

色々な価値観を持つ親もいるが、そんな中学のライフ・スキルの授業でLGBTQについて習う。
小さい子供は「あるものをあるがままに受容する。幼児は禅のこころをも持つアナキストだ」と語る人もいる。
LGBTについては「タンゴ」という子供たちの大好きな絵本がある。ニューヨークのセントラルパーク動物園で恋に落ちた2羽のオスのペンギンの実話で、放置された卵をオス同士交代で温め、赤ちゃんが生まれ、赤ちゃんはタンゴと名付けられる。タンゴは一人じゃ踊れない。原題は「And Tango Makes Three』。子供の頃からこんな絵本を読んでもらい、差別について、ダイバーシティについて学んでいく。

また性教育ではFGM(Female Genital Mutilation)について学ぶ。中学生にかとびっくりさせられてしまう。

PTAのボランティアで制服のリサイクルをするため、ほころびを直す作者。学校がボランティアで成り立っている。アメリカもそうだったなあ。EU離脱で揺れ動くイギリスの格差社会の中で、息子を社会に預け、子育てをする中で自らも学んでいく逞しい「かあちゃん」。日本の中学より「地雷(踏んではいけないもの」がたくさんあって、大変そうだけど、こういう教育はいいなあ。

孫たちには自分とは何者と考え、悩みながら大きくなってほしいと思います。
コロナ対策が失敗したと言われるイギリス。みかこさんが今なんと言っているか、ネットに出ていますので、興味のある方はご覧になってください。

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遠の眠りの 谷崎由依

谷崎由依、1978年福井生まれ。前々回の登場の藤田宜永も福井の出身でした。

大正から昭和、そして敗戦までのお話です。福井市の郊外では農業が営まれ、絹織物を産出していました。手機から機械織りへ、そして人絹へと移っていきました。

主人公、西野絵子(えこ)は姉、弟、妹二人の貧乏百姓の娘。父は勉強の好きではない弟には中学進学を考え、勉強したい絵子は女には学問はいらないと言われ、尋常小学校を卒業する。弟には魚が与えられても、女たちは菜を食べるだけ。読書好きの絵子は、旅籠屋の娘まい子から本を借り、本を読むことだけが楽しみだった。

渡しのおばちゃんは小さな妹ヨリを背にした絵子を狐川の対岸にあるまい子のところまで運んでくれ、お婆の教えてくれた「長き夜の、遠の眠りのみな目覚め、波乗り舟の、音のよきかな」と、回文の不思議な歌を歌いながら、麻衣子とのひと時を楽しむのだった。

絵子は小学校を出て以来、「頭を使い、考えて、それを言葉にするということ」をずっと考えていた。そんなある日、「生きて行くために働いているのに、ぜんぜん生きているって思われんわ。(中略)かあちゃんみたいになるんやったら生きてても仕方ない・・・」と言った絵子は父に殴り飛ばされ、そのまま勘当され、うちに戻れなくなってしまった。高熱を出して倒れていた絵子を見つけたのはまい子だった。

絵子はまい子のうちを出て、福井の街にある人絹工場で、女工として働くことになる。女工たちはわずかな給金で仕送りをしたり、小物を買ったりしていた。そこで絵子は「青鞜」を読む凛とした吉田朝子に出会う。

工場の近くにえびす屋という夢のような百貨店ができた。鍋川という支配人は元教員で、絵子はここで働きたいと鍋川に訴える。何ができるのかと問われた絵子は「本が読める、お話が書ける」と言って雇われることになる。えびす屋には遊園地も劇場も併設された。絵子は食堂で手伝いながら、少女歌劇に顔を出すようになる。

少女歌劇で女役をしているボーイソプラノのの清次郎とその兄の清太と出会い、絵子は天から降りてきたかのように「はごろも」と「遠の眠りの」という二つ脚本を書き上げる。幻想的で観念的なお話を。

大正デモクラシー、世界大恐慌、農村の暮らし、女工たちの思い、ウラジオストクから敦賀にたどり着いた難民、大東亜戦争突入、しっかりした歴史をベースにお話は進んで行くが、絵子の気持ち、頭の中は仄暗い幻想の中だ。

リアリティとイリュージョン、この二つの世界を行ったり来たりしながら物語は進んで行くが、これが成功したのだろうか。
平安末期、または戦国時代あたりに時代を移せば、このお話はもっと成功したのではないだろうかと思いました。

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『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

本書は2019年の本屋大賞受賞作です。著者は瀬尾まいこ(1974年、大阪生まれ)。初めて同著者の本を読みました。

「森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。この著者にしか描けない優しい物語。 「私には父親が三人、母親が二人いる。 家族の形態は、十七年間で七回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」 身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作」

本書の構成が変わっています。プロローグとエピローグは森宮優子の継父森宮壮介、第1章が約280ページ。第2章が約80ページで、主人公は森宮優子です。

親の再婚、離婚、継母の再婚、離婚、再婚でころころと親と名字が変わる優子に、先生をはじめ周囲は同情の眼差しを向ける。
「これまで辛い思いをしてきたんだね」「悩んでることがあったら言ってね」と言われるが、優子はそれを辛いとか悩みとか思っていない。なぜなら5人の親、優子のことを何より大事にしてくれる親たちみんなが大好きだから。

心優しい本で、アニメ原作の連続テレビを見ているようでした。

幼少の頃母を亡くし、父と二人で暮らしていたが、父が、自分の思い通りに生きる若くて明るい梨花と再婚。

実父水戸秀平がブラジル転勤になった折、日本に残ることになった優子と梨花。父と梨花さんは離婚してしまう。

優子がピアノが欲しいと言ったら、梨花さんピアノを習わせたい一心で、金持ちで落ち着いた包容力のある実業家泉ヶ原と再婚し、優子も一緒に豪邸に住むことになる。泉が原家ではお手伝いさんがいて梨花は何もすることがない。そして梨花は優子を残してちょっと窮屈な泉ヶ原家を出て行ってしまう。

梨花は優子の父にふさわしいと高校の同級生で東大卒、一流企業に勤める森宮壮介と再々婚する。しかし、梨花はまたあっという間に家を出てしまい、森宮さんと二人だけの暮らしが始まる。優子のために料理をし、娘一筋に父親を演じる森宮さん。

優子は高校生。友達のとのいざこざ、ボーイフレンド、部活、学校行事、試験、進学問題などいろいろな出来事が起きるが、まずは健康的な高校生活を送っている。

森宮さんは優子に言う。「梨花が言っていた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって」「親になるって、未来が二倍以上になることだよって」。
それなのに優子は森宮さんと暮らし始めて3年経っても、お父さんとは呼べない。

第2章は優子の結婚です。

善意の人ばかり登場し、若いのに気持ちの安定した優しい主人公に、読後感の良い、若い本でした。

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